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COLUMN食旅紀行

沖縄県 宮古島のパッションフルーツ

 

早春の3月、沖縄の宮古島へと出掛けた。

今回の目的は、島の特産物の現地視察。

パッションフルーツ、マンゴー、パイン、島バナナ、塩など…。

 

宮古島に到着すると、やはり常夏の島だけあって暖かだった。僕を出迎えてくれた知人も、そんな島の気候と同じで実に温かみに溢れていた。宮古島でモズクを栽培しているというその方は、水産関係の縁で知り合った人だ。モズクをどのように栽培しているのか、僕にはさっぱり見当がつかなかったので、まずその現場へと車で連れて行ってもらった。

 

宮古島から池間島にかかる池間大橋の袂で、突然車が止まった。車窓に流れる景色に見惚れていた僕は、渡りに船とばかりに停車すると、勢い良く真っ白な砂浜へと向かって駆け出していた。真っ白な砂浜の向こうに広がる青く透き通った海、まさに南国の海の景色だ。車の中で、ずっとこの景色を写真に収めたいと落ち着きを失っていた僕は、もう夢中になってシャッターを切った。後方から「こっちへ来て」という声が何度も聞こえたが、僕はお構い無しに撮り続け、さらには砂浜に足を踏み入れた。最後にはとうとう靴まで脱ぎ捨てて、海に入って遊んでしまう始末。興奮すると、僕はいつでもやんちゃ坊主に戻ってしまう。流石の知人も業を煮やした様子だったので、僕もようやく我に返った。沖縄の海はどうしても、我を忘れさせるのだ。

 

ようやく我に返った僕は、案内に従ってしおらしく後を付いて行くと、そこは僕がさっきまでいた砂浜の道路を挟んだ対岸だった。僕は不思議に思って、きっとこちら側でも写真を撮った方が良いということだろうと、と頭の中で推し量って、カメラ片手に写真を撮ろうと構えると…。

 

「ここだよ」と知人が言った。また疑問符が頭の中に浮かぶ。

「何ですか」と返事すると、

「ここで栽培しているんだよ。」またまた不思議な答えが返ってきた。

「何をですか」と僕。

「モズクだよ」と彼。

「えーどこですか?」と、また僕。

「ほらすぐそこの海底に黒い物が見えるでしょ。」と彼が続けた。

「あ~っ ほんとだ。 えっここでモズクを栽培しているんですか? 」と僕。

「そうそう、ここで栽培をしてるんだ。綺麗な場所でしょう!」と彼。

「…。」僕…。

 

モズクってこんな綺麗な場所で栽培していたのだ。最高の観光スポットと、モズクの栽培地。この妙な取り合わせに、僕の頭は混乱したものの、ようやく何とか理解したのだった。

 

 昼時。店に入るや否や、僕は「モズクが食べたい」と口にすると、彼は「この店にも卸しているから、食べて感想を聞かせて下さい」と。モズクが食べられるというのに、僕は少々不安。あの景色の中で育ったモズクを間違っても美味しくないとは言えないなと勝手なことを思っていたから。いざそのモズクを口にしてみると…。それがとても清らかな味なのだ。そう、あの透きとおる海そのままの味で、とても美味しいのだ。旨いという強さではなく、じんわりと身体に染みる感じ。次いで出てきたのが「モズクの天麩羅」。これにはもう降参としかいいようがない。美味しいというのではなく、ストレートに旨い!と言い切れる感じだ。

こうしてモズクを口にしてみると、やはり宮古島の海というのは、ただ単に綺麗というのではなく、美しい海なのだとつくづくと思う

昼食を終えた僕は、すっかり気持ちが高揚して、これからどんな美味しいものが待ち受けているかと思うと、その期待に胸を大きく膨らませた。

 

高揚した気持ちで沖縄の夜を楽しみにしていたが、夜食の先が大人の飲み屋さんで・・・彼の おもてなしの気持ちであろうが、 心なしか 残念な夜となってしまった。

 

翌日は早朝から宮古島のフルーツ視察。マンゴーにパパイヤ、それに島バナナの農場見学。でも僕が期待していた以上のものではなかったので、少々意気消沈。

 

気を取り直して、昼食。マンゴーカレーをご馳走になった。

ついで出てきたのが、即席のアイスクリーム。これがとても良かった。即席と僕がいうのは、出来たてという意味だ。

作り方を観察していたのだが、簡単に説明すると、まず、筒状の器具に冷凍の完熟フルーツとバニラアイスを投入すると、その上からドリル状の機械が回りながら降りてくる。すると、筒の下からバニラアイスに完熟フルーツが混じり合いながら、ソフトクリームのように出てくるのだ。だから、完熟のフルーツのアイスクリームが、出来たての状態で食べられる。これは、もの凄く楽しい。熟れた果実の香りがストレートに伝わってくるから、果実そのもの美味しさを感じることができる。しかもそこにアイスクリームのコクと加わるから、もうそれは本当に抜群なのだ。

 

次に向かったのは、ドラゴンフルーツ農園。ドラゴンフルーツは、派手な見た目がこの果実の強みであって、僕が知る限りでは美味しいフルーツとは言えない。だから、正直に言えば期待していなかったというのが本音だ。

 

しかし、実際農園を見学してみると、その栽培方法は非常に興味深く、また農園の方の説明はとても楽しいものだった。

丁寧な説明の後、いよいよ試食した。それではと出されたドラゴンフルーツを食べてみると、僕の感想は悪くないなという感じだった。その方は僕が食べ終わるのを見計らうと「今食べてもらったドラゴンは東京などで出回っているドラゴンでして、こちらが 私が育てているドラゴンです」と新たなドラゴンフルーツを出してきた。それは、真っ赤に完熟した見事なものだった。その色は、赤というより紫に近く、しかも透き通った感じで見るからにみずみずしい。口に入れてみると、トロッとした食感が広がり、しかも歯触りが心地良い。そしてみるみる口の中は、あの南国特有の香りで一杯になったのだ。思わず「美味しい! 美味しいですね!」と伝えると、「これはまだまだ未熟ですがね」と僕の感想をあっさりとかわした。

そして彼はまた別のものを僕に差し出すのだった。それは、黄色いドラゴンフルーツ。えっ?!黄色いドラゴンフルーツもあるのかと、僕は不思議に思いつつも口にすると、一つ前に食べたそれとは違って、もう少し歯ごたえがあり、さっきよりも少し未熟な感じがした。正直に「少々未熟な感じですね、これは」と伝えると、「これが完熟の状態なんです」と…。

またもや僕の頭は混乱したのだった。

補足をすると、ドラゴンフルーツの糖分はブドウ糖で、一般的なフルーツの果糖とは異なっているのが特徴である。甘味の違いを数値化してみると面白い結果が出ている。

甘味度を測ると、ブドウ糖は果糖の半分位の甘味となる。しかし、糖度は16度前後の糖度がある。 甘いと表現されるフルーツの平均値が14~17度ですから、甘いフルーツのトップ10には君臨する位 しかし、堂々と甘いフルーツと言えるのですが、糖質がブドウ糖なので、味覚として感じる甘味は実際の半分という事になります。 何とも不思議なフルーツと言えます。 

 

とにかく、新たな体験は色々なことを教えてくれる。

その日の昼食は、ドラゴンフルーツのジュースで漬け込んだカブの漬物とご飯。実にシンプルで、風変わりなお昼ご飯となった。

 

この不可思議な体験をした後に向かった先は、パッションフルーツ農園。

この農園では、化学肥料と農薬を極力使わないでパッションフルーツを育てている。だから、雑草駆除に忙しく、また剪定もこまめにするため、一年中休むことなく働いている。酪農家の多くが、休みがないことはよく知っていたが、パッションフルーツ農園でもそうだとは思いがけないことだった。僕は果実栽培だから、きっと手間はかからぬものと思い込んでいたのだから、それは本当に驚くべきことだった。

農園のパッションフルーツは、見事な色艶で実に立派だ。生っている果実の下に、手でかざすように触れただけで落ちるような感じになると、それが収穫の合図となる。そんな話を聞いた僕は、主人が目を逸らしている隙に、早速やってみる。そうしたら、しまった!と思う間もなく、本当に実が落ちてしまった。大慌てで、落下した実をポケットに突っ込んだ。でも僕のポケットは、パッションフルーツの大きさ状に膨らんで、誰が観ても疑いようがない状況になってしまった。農園の主人は「美味しいから是非とも食べてみてください。本当にかざすだけで実が落ちたでしょ」と、静かに話されて、そんな僕を優しく救うのだった。どうしてもやってみたくなる性分は、自分でも本当にどうにもならない…。

その後は、もちろん堂々と収穫した。そして待ちに待った試食。

 それまでの僕はパッションフルーツというのは、皮の表面にシワが寄った頃合いが食べ頃だと聞いていた。だから、このツルツルとしたもぎたての果実は、かなり酸っぱいだろうと想像して、きっと口に入れたら僕の舌は酸味に襲われてしまうだろうと覚悟していた。すると、どうだろう。僕の舌の思いとは裏腹に、半分に切られたそれをスプーンで掬い取って恐る恐る口に運んでみると、実に柔らかで品のある香りと爽やかな甘味が口いっぱいに広がったのだ。そして、その芳醇な甘みの後に、澄み切った酸味が続いた。プチプチした種を噛んでみると、カリッとした食感が楽しく、それが僕の脳みそに心地よい刺激与えた。僕は、ただただ夢中になって南国パラダイスに酔いしれるばかりだった。

 

毎年夏が来ると、僕はなぜか南国モードになって暖かな島国へと出掛けたくなる。今では早春になると、僕の体内磁石はしっかり南国と引き合って、ソワソワとして落ち着かない。「パッション、パッションがやってくる」と厨房で騒ぐ僕は、スタッフは「まだ夏じゃないですよ、気が早いですよ」と冷たくあしらわれる。しかし、僕の心だけはすでに南国宮古島に飛んでいる。

さあ今年も宮古島で南国を満喫しよう!