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COLUMN食旅紀行

キノコ狩りが縁で出逢った 黄色い夏

 

春の山菜の収穫が落ち着く頃、野山では別の楽しみが始まる。大好きなキノコ狩りだ。キノコは本当に不思議な存在。一見植物のように感じるが、実は「菌」なのだ。菌は菌でも目で見ることのできる美味しい菌。マッシュルームに椎茸、えのき茸も、みんなキノコで、そして菌なのだ。

 

山菜採りに野山に入ると、動物も含めて色んなものと出会う。キノコもその一つ。初めて僕が興味をもったのは、夏の盛りに見つけたキノコだった。

それは実に面白い形をして、地面から顔をのぞかせていた。白いタマゴ型の綿のようなものから、真っ赤に色付いたさらにタマゴ状のものが伸びていた。僕はふざけて、それをボールに見立てて、蹴り上げて遊んだのだ。でも何だか妙に気になって、この奇妙なキノコ様のものを持ち帰った。もちろん、最初からキノコだろうと、見当はついていたので、早速「キノコ図鑑」を開いてみると…。これには本当に驚いたが、巻頭ページにカラー写真で「ヨーロッパではキノコ料理の貴婦人と評され」と、堂々と載っていたのだ。しかも、それは「最高に美味しいキノコ」だと。

 

これが、僕の嬉しくも楽しいキノコとの最初の出会いだ。それからは、もう来る日も来る日も「山菜、キノコ」「山菜、キノコ」と唱えながら、季節になると野山を歩きまわった。

そんなことを数年繰り返して、愛用のキノコ図鑑や山菜図鑑がボロボロになった頃、ふと思いついたことがあった。日本一の山に入れば、きっと日本一のキノコ、憧れのあのキノコを収穫できるのではと。そんな妄想めいた閃きで、ある時思い切って山梨県内の富士の裾野にまで足を伸ばした。初めて足を踏み入れた場所は、あの青木ヶ原樹海だ。

 

何故ゆえそこにと問われれば、陰鬱でジメッとした樹海のイメージから、菌がよく繁殖しているのではないかと想像したからだ。しかし素人の浅はかさで、探しまわっても目にするのは、白いタマゴ型の「死の天使」と欧米で称されるドクツルタケばかりだった。この試みは結局徒労に終わり、僕にただ二度と入るまいと誓わせただけだった。

 

仕方なく帰路に着いたのだが、途中でキノコ屋さんがあったのでふと立ち寄ってみた。そうしたら、僕が常日頃、図鑑を見ては溜息混じりに憧れていた、あのキノコが所狭しと並んでいた。興奮した僕は、ついそこの店の人に「これはどこで採ってきたのですか」と尋ねた。そうしたら「すぐそこの山だよ」と言ったのだ。

 

ついさっきまでの僕の誓いはあっという間に吹き飛んで、日暮れまでまだ時間もあったから、再び山へ大急ぎで向かった。そうしたら、僕が日夜恋し続けてきたあの「松茸」が僕の目の前に生えていたのだ!

よく「ビキナーズラック」って口にするけれど、この出来事から、僕は「キノコのことなら何でも聞いてみろ」といった風で、すっかりキノコ博士にでもなった気持ちでいる。でも本当は、ただのキノコ馬鹿だ。

 

*  *  *

 

ところで、このキノコ屋。それからすっかり親しくなって、今でも行く度に立ち寄っている。キノコ屋・キノコ屋と、勝手に思い込んでいたが、この店は本来、近隣の野山や畑で収穫したものを色々と売っている店だった。そのことに気付いたのは、この店と大分付き合いが深くなってからのことだ。僕はキノコ馬鹿ゆえに、長い間、全くキノコしか眼に入らなかったのだ。ようやくそのことに気が付いて良く眺めてみると、この店にはキノコ以外にも魅力的なものが並んでいた。ブドウや桃などの旬真っ盛りの果物や野菜など。それはいつだって、もぎたて採れたての瑞々しいものばかり。

 

ある時、店の兄さんに「モロコシでも食べるか」と聞かれて、その言葉に甘えてごちそうになった。粒が綺麗に並んだそのモロコシをひと口齧ってみると、あの松茸の感動と同じ位の衝撃で、思わず叫んでしまった。「どうしたの」僕の声に驚いた調子で聞く彼に、「何ですかこれは」と聞き返した。「モロコシだよ」「だからモロコシって何?」と。奇妙な問答を繰り返した後に分かったのは、それは「ゴールドラッシュ」という、糖度の高いトウモロコシだということだった。

 

こういう強い個性をもった食材との出逢いは、僕ら料理人を十分に刺激して、新しい感激や発見を与えてくれる。もちろん、個性が強い分だけに、他の食材との組み合わせには注意が必要だ。その代わりに、組み合わせに成功した時の感動は絶大なものがある。ゴールドラッシュは、僕のトウモロコシ概念をすっかり変える程の力がもっていたのだ。

 

ゴールドラッシュを夏のトリュフと合わせると、素晴らしい香りが生まれる。フレンチには欠かせないフォアグラと組み合わせると、これ以上ないという最高の一皿が完成する。この甘み十分なモロコシを香ばしく揚げると、その甘さはさらに数倍にも膨れ上がる。僕はゴールドラッシュをデザートにも仕立てる。クレームブリュレ、シブースト等など。このモロコシは、料理だけでなくデザートでも強い個性を発揮して、皆を陶酔させる。

 

キノコ狩りをきっかけに出会った真夏の黄色。今ではすっかりこのモロコシの虜になって、夏が来ると僕は嬉々として料理する。黄色に輝く香りが、真夏のサロン一杯に広がる。